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シザーストラス工法コンセプト

01.大きな考え方

木の循環システムの一環として 


この図は最終的なプロジェクトの考え方を示したものです。プロジェクト単体というより木材の循環の中にプロジェクトを位置づけた考え方なのですが、、、。「最終的な」と書いたのは実は最初からこの考え方の元に始まったのではなくて、打ち合わせ・検討、また打ち合わせと重ねていく中で、アイディアが膨らんで、この考え方にたどり着きました。

⇦プロジェクト全体を包含する考え方です。

びっくりした時のカリカチュア

02.マジですか?

びっくりする課題を渡される。


事業者は、宮城県でリサイクルの廃棄物の材料リサイクルや熱源リサイクル、また付加価値をつけて再度市場に流通させるアップサイクルなど、「リサイクルの7次産業化」を目指している企業です。
そんな企業から、現場作業員の休憩所を兼ねた新しい事務所をつくろうと思って、いろいろと検討してきたのだが、納得できる案がないので手伝ってくれないかとお話を頂きました。
伺って詳しく話を聞いてみると、流木とか、廃材として捨てられるような木・板で建築ってつくれない?簡単にいうと「廃材で建物ってつくれないのかな」と言われ、、、。マジ???いやこの笑顔とこの声質はマジで言ってる。いつもの冗談ではないぞ、、、と戸惑いながらも頭を切り替えて、つくれないことはないんだけど、、、一つ一つ材料の特性を調べて安全性を確認して、法律的に許容される大きさまでならつくれますが、それをするのには手間と時間と費用がかかりますよと真面目に説明して、何か良い方法を考えてみますと、、、一旦退却しました。

⇦「廃材で建物をつくれないかな」と言われた時の気持ちをマンガにしました。

蔵王町の事務所のラフスケッチ

03.さてどうしようか。

先人に倣う。原理に従う。


実は、打ち合わせの際に一枚の写真を見せてもらっていました。幅も厚みも長さもバラバラな板材で作られた古い倉庫(たぶん)の写真でした。確かに端材や廃材で工夫してつくられている感じでした。正直な所、これならできると思っていました。現在のような木材の生産体制・加工技術のない昔の時代には、先人達が創意工夫をして建物がつくられていました。
過去の事例を参照しながら、また構造事務所と相談して、板材をトラス状に組んだ構造から空間を構成するスタディを始めました。

⇦ぼやーっとしながら書いていたラフスケッチです。スリーヒンジは最初から頭にあったようです。

蔵王町の事務所のファースト模型

04.最初の模型

 最終案には程遠いですが、、、。


いろいろスケッチして、用途上必要なスパンや高さを検討して、最初に作った模型です。この案を元に再度打ち合わせをしました。
この時点で整理していた点は、コストを考慮した上で
1.厚み36mmの板材をトラス上にして構成する。家の間柱のサイズくらいです。
(ツーバイ材でもできるように考えていました。)
2.長さ3m,4mの規格材料で構成する。
3.仕口は難しいので、部材同士の接合はボルト留めとする。
といったくらいでした。もちろん事務所として必要な機能や大きさの話もしましたが、空間を構成する構造の話がほとんどでした。
廃材の話はどこにいったのか、、、。わすれてもらえるようにあえて触れなかった、、、わけではありません。構造上・安全上の条件(材料強度や部材断面等)を満たす廃材や流木ならいいですよ、ときちんと説明しています。

⇦最初に作ったスタディモデルです。最終案と比べて部材数が多いです。

蔵王町の事務所の下屋スタディ模型

05.特殊解としての下屋

トラスフレームと一体化する


何回か打ち合わせを重ねて、下屋部分を設けた構造です。下屋の話が出た際は本体構造(板材のトラス構造)とは切り離して、下屋は下屋で独立して作ろうと思ったのですが、意匠的に全然しっくりこなく、またコストを抑えるためにも一体化するスタディを始めた案です。約3.64m(2間)をはねだすのに方杖が入っています。これが入っていると下屋として有効な部分が少なくなるので、なくす方向でスタディを進めることになります。
タイトルで「特殊解」と書いたのは、スリーヒンジのトラス構造からアイディアが膨らみ始めていて、
1.いろんな形が作れるよね。
2.頂点のヒンジ部分を本当に回転できる機構にして、シャフトをつけたら、面白い建て方ができるんじゃない?工場で作ったものを現場に持って行ってすぐ建てれるんじゃない?
3.ボルトで留めるだけだから大工じゃない自分たちでもつくれるんじゃない?
4.間伐材を利用できない?
などなどいろんなアイディアが出て、事務所をつくると言うより、、、この構造形式で何ができるかと言うことに議論が移っていました。その形式の一つとして事務所を建てようと、、、。当たり前のことですが、原理に近いものは応用が効きます。

⇦下屋を本体構造と一体化しようとスタディしていた模型です。

シザーズトラス工法のお遊び

06.可能性を探してみる

ワンプレートで遊ぶ


自分たちの事務所の内装改修した時の端材があったので、その端材の上に建て方の方法や、トラスフレームを応用してできる形を作ってみたものです。ここでの遊びみたいな検討が、のちのプロジェクト(温室やテント)に生かされていきます。
 
 

⇦建て方の方法や、組合せによってできる形状をスタディ。

蔵王町の事務所モックアップ作成1

07.1/2モックアップをつくる-1

材料を加工してみる


自分たちでもつくれるよねと議論していたので、実際作ってみることになりました。
普段モックアップを設計段階でつくることは少なく、ましてや自分たちでつくることは滅多にありません、、、。ただ特殊なので、加工・組み立て・建て方を通してどのようなことが起こるのか。実際に確かめてみました。木材は2バイ材で代用して、自分たちで切って穴あけて、、、結構ずれるかなーと思いきや、うまくいきました。

⇦加工した材料を重ねてボルト締めする段階です。

蔵王町の事務所のモックアップ2

08.1/2モックアップをつくる-2

組み立ててみる


ボルトで接合(支圧接合)する時ってボルト径と木材に開けておく孔って、余裕(クリアランス)が全然ないんです。(0.5mmしか余裕がないんです。)
ここでは、部材が重なった時にボルトが通せるかを主に確認しています。予想通り板の枚数が重なればなるほど、大変でした。
 
 

⇦写真上:広げたフレーム、下:収納したフレーム

蔵王町の事務所モックアップ完成

09.1/2モックアップ完成

建ててみる


組み上げたトラスフレームを建ててみました。やはりねじれる。建て方が一番課題が多い、難題だとわかりました。ちなみにこの写真の大きさで、実際の1/2の大きさです。
実はこの段階で、このプロジェクトの認識は、トラスフレームを利用して、できるかぎり大きな事務所をつくろう、、、となっていました。実は、最初の打ち合わせから、ここまでくるのに2ヶ月くらい。今思うと濃密な時間を過ごしていました。
 

⇦完成したモッックアップの写真。モックアップで得た知見を最終案に反映させます。

蔵王町の事務所立体解析モデル

10.最終構造モデル

モックアップからのフィードバック


設計中は常に構造とディスカッションです。構造も設計案と同じように、検討を重ねていきます。最初の模型からどんどん部材が減っていくのは、構造検討によるものです。不要な部材や応力の小さい部材は減らしていったり、どんどん合理化して経済的にしていきます。
この仕事は、とても私たちの設計事務所だけではできないので、信頼できる構造設計事務所と協働しています。モックアップで得られた知見も構造事務所と共有して、最終案へと進んでいきました。少し変わった木造なので、立体解析による構造計算をしています。

⇦最終の立体解析モデル

蔵王町の事務所最終模型1

11.最終軸組模型-1

最終確認です。


最終の軸組模型です。部材断面、組み方も忠実に表現しています。アルバイトの学生が二週間くらいずっと頑張ってくれました。いろんな人に助けてもらっています。
 
 
 

⇦軸組模型を上から見ています。

蔵王町の事務所最終模型2

12.最終軸組模型-2

頭の中のイメージとすり合わせます。


軸組模型の内観です。実物と全く変わらないです。
棟の部分は、後述しようと思っておりますが、特殊な金物を開発しています。この金物を強調し、室内の光環境も考慮して、最終案ではトップライトを設けることになりました。
この模型は事業者が大事に活用してくれています。
 

⇦軸組模型の内観です。

蔵王町の事務所ヒンジ金物開発1

13.棟部分のヒンジの開発-1

やるならとことんpart1


スリーヒンジの構造形式が決まったところで、「05」のところで先述したように、棟金物の開発が本体の設計と並行してはじまりました。金属加工会社の方々にも協力をいただいて、事業者・設計者・施工者と一緒になって取り組んでいきました。事業者が解体工事をやられていることもあり、重機の知識も豊富で、ほとんど事業者と施工者のお力です。私たちは建築側としての構造的な検討、木との納まりの検討、意匠的な検討をさせていただいた程度です、、、。実際どんな機構になっているかは、事業者で構造・構法と合わせて特許申請中のため詳しく記述できません、ご容赦ください。

⇦たくさんつくったモックアップの一つです。最終的なものは「001蔵王町の事務所」を見ていただければと思います。

蔵王町の事務所棟金物実験中

14.棟部分のヒンジの開発-2

手の届かないところに、、、。


実際にヒンジとして機能するか実験しているところです。
たくさんつくったモックアップごとに実験して、その結果を最終の形状へと反映しています。仮設建築等も想定していたため、繰り返し動作を行っても不具合が生じないか、またこの時は棟方向への水平移動もできないかと考えていため、上手に滑るか等、、、試行錯誤を繰り返しました。協力いただいた皆様には多大な労力と時間を費やしていただいて感謝しています。
 

⇦ヒンジ(棟金物)の実験中

蔵王町の事務所外壁の開発

15.外壁も開発

やるならとことんpart2


もともと「廃材で建物ってつくれないかなー」から始まったプロジェクトです。
この言葉には、事業者の会社の目指す方針「リサイクルの7次化」が詰まっています。
ですから、性能的にも安定している一般的な建材を使いましょう、、、なんてここまできたら誰も思いませんでした、、、。いや、私たちは、性能を考えてしまうので、わかっている、使い慣れている材料・建材の方が安心、、、と思う気持ちがあったのはまちがいないのですが、、、覚悟を決めて外壁材の開発に取り組みました。
ここではカラーズさんと協力して、、、取り組みました。ほぼカラーズさんに頑張っていただいたと言った方が正しいですが。原料は古紙と廃プラスチックを主原料としたRPFと言う固形の燃料です。
開発したRPFの外壁以外にも当初想定していた木材も使用しています。木材と言っても、製品として販売されている木材ではなく、パレットや廃材などを想定していました。
今回は、大工さんの不良在庫(工事後に余った少量の木材、廃棄処分に回されるもの)を集めて使用しています。(木部の塗装は集めた木材に最初から塗装されていたもの)
工事をする際、足りなくなると困るので材料は少し多めに取ることが多いです。といっても、次の工事で使えるほどの量は余らないので、処分するか、工場に保管され、利用されないで保管されたままになることも多いようです。そういったものを集める仕組みや、建物に上手に使うことで資源をきちんと大切に使うことができないかなと思っています。

⇦RPFを原料とした外壁

蔵王町の事務所建具開発

16.建具も、、、

やるならとことんpart3


もうお分かりだと思いますが、、、開口部、窓も既製品ではありません。アルミサッシがいいとは、、、さすがにもう思いません。ここでは古建具・アンティーク建具を使用しています。
ただ開口部は、採光・換気・排煙などの法的な規制や、また隙間風や雨が入ったら大変なので、性能的な部分も大事なところです。なので基本的に木製パネルの中にFIX窓として使用し、法条件を満たすよう、最小限の古建具だけ開閉機構を残しています。ここでもカラーズさんにご協力いただいております。 一つ一つ大きさの違う古建具・アンティーク建具を実測して、法条件を満たしながらパネル内にどのようにレイアウトするか、何度も調整・修正の作業を繰り返しました。

⇦古建具・アンティーク建具を嵌め込んだ木製パネルの作成中の様子

間伐材を利用した蔵王町の事務所完成写真

17.できた、、、。

やりきってみて


事業主の事務所を「廃材で建物ってつくれない?」から始まって、打ち合わせを進めていく中で、「構法の開発」に主題が変わり、事務所をつくるという業務が、「開発した構法」のバリエーションの一つとして事務所をつくるという業務にダイナミックに変化しました。その中でも、「廃材で建物ってつくれない」の言葉が意味する「リサイクルの7次化」という企業理念・企業方針を「開発した構法」のバリエーションに落とし込む設計ができたのかと思っています。もう少し深く考えれば良かったところ、新たな課題も見つかったので今後に生かしていきたいと思います。
また、関係者全員で打ち合わせを重ね、上下関係、立場関係のないフラットな関係でアイディアを出し合いながら設計を進めることができたので、関係した各々が自分が考えたと言える建物・構法の開発となったことが、私たちには、とてもうれしく感じました。

⇦竣工写真(内観)

シザーズトラスの開発の考え方

18.はぐらかした???

大きな考え方の説明がないよ、、。


ところで「01.大きな考え方」の意味が、この文を読んできても捉えられないよって思います。書いている私も書いていてわかりません(笑)
実は「05」の箇条書き4で「間伐材って使えないの?」というアイディアから、実際に林業(材木会社)に携わる方に、間伐材利用のアドバイスをいただき、間伐材利用を前提に設計しています。厚みが36の板材で構造を考えていたことも良い方向に働きました。(スパン等によっては幅が大きくなって厳しくなるのですが。)
一般的に、間伐材を建築材料として利用する時は、内装材であったり、二次加工された材料(集成材とかCLT)として利用されます。二次加工するということは、加工場への運搬と加工時のエネルギーが必要となります。
間伐材をそのまま利用することは、森林環境保全に役立つと同時に、森林の恵みを必要最小限のエネルギーで建物に活用し、またボルト固定なので、解体時には「木材」に戻せる。そして最終的にはチップにし、熱エネルギーとして野菜栽培等に活用する。自然の恵みを最大限享受して、また自然に還す。
植樹→建築での利用→解体→木チップとして熱源利用→熱エネルギーの有効活用→植樹と循環型木材利用の提案が、このプロジェクトの最終目標で、”新築した事務所”はその循環の一つの段階です。できれば解体されてしっかりと熱源として活用されるまで見届けようと思っています。

⇦木の循環を示した図です。

悶々と考える設計者のマンガ

19.建築に携わるものとして思うこと

違う流れがあってもいい


余談です。昨今、木材利用が推進されています。
持続可能性や温暖化のことを考えると、とても良いことだと思っています。
集成材、CLTなどの材料により木材利用の可能性が広がるし、また品質基準(材料強度など)がはっきりしたJAS規格材により設計者としては安心して木を使えます。
この流れは、木材を有効かつ安全に利用する上でとても大事なことだと思いますが、個人的には少し違う流れ、逆行する流れも考えたい。
昨今の流れ・考え方だと、木で建築をつくることがとても遠くに感じられる。
裏山の木を切って家を建てる、そんな身近にあって、材料として利用しやすいのが木のいいところだと思うのです。
温暖化対策として木を利用するのであれば、できる限りエネルギーを使用しない形で利用したい。格付けされていない、材料強度がはっきりしない木でも、今までのように材料の安全率をとって余裕のある構造で利用していきたい。木材がいっぱいあるからといっても、無駄遣いはしたくない。
そんなことを考えながら、今回のプロジェクトに取り組んでいました。

⇦悶々と考える設計者をマンガにしました。